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ショートフィルム用原稿「唐揚げ」(ゆ)

唐揚げ

この町に越してもう7年。住みやすくて、離れられない。成田空港も沿線、羽田空港も沿線なので、出張が国内海外とも便利。オフィスのある日本橋も一本だし。こんなに便利なのに、下町人情溢れるこの町は家賃や物価も安い。商店街が充実していて、買い物も楽しい。イトーヨーカドーも、古めかしい町のスーパー程度でこの町らしい。全国的に有名なこの町の名店もある。最近は、古めかしい店と並んでオシャレなカフェもできた。ヨガのできる民家もある。映画館は、自転車の距離だけど。下町は、フラットなので、どこへ行くのも楽チンだ。川を超える以外は。生活ってこれくらいがいい。

朝のヨガを終えて、汗を流すシャワーを浴びる。部屋の掃除を終えたら、買い物へ行こう。今日は、唐揚げを作ろう。家庭で揚げる、ケンタッキーフライドチキン並のパリパリ中はジューシー唐揚げ。彼の好物だ。今日の夕方に出張先のバンコックから帰ってくる。

唐揚げ.jpg

とり肉は、専門店。ワインの充実した酒屋もある。ホームパーティーをやる時なんかワインやビールが重くて持てないくらいになると酒屋の若旦那が届けてくれる。御用聞きもしてくれるって、サザエさんのみかわ屋さんみたい。粉や油は、ヨーカドーで買おう。エコバックは持った。自転車をだして、町を走る。

カンカンカン、踏切の音もレトロだ。短い電車が通り過ぎる。今日の電車は4両しかない。ちょっと長いバスみたい。中央線や田園都市線にはない車両の数で、安心する。いつも郊外から都心へ向けてあれだけの人が満員電車に押し込まれて移動をする。その中に自分もいたと思うとゾッとした。日本人は本当に我慢強いのかな。ストレスになるよね。その点、京成線は、座れなくとも、新聞が読める。人と人の距離ってこれくらいが限度じゃないかな。

「こんにちは。」

「はい、らっしゃい。」

「えーっと。今日は唐揚げを作るので、手羽を6本とモモ肉を400gくらいください。」

「はいよー。どれがいい?」

「このハーブ鶏にしようかな?おじさん、これの手羽もある?」

「手羽もあるよ。これはいい鶏だよ。」

「こんなんでいいかな?」とお肉のかたまりを見せて測りに乗せる。

「少なめより多めでいいから。あ、カットしてもらっていい。普通の唐揚げより大きめで。」

「これくらいでいいかい?」

「そうね、気持ち、もうちょっと大きいカットでいいわ。」

お店の人との会話が嫌でスーパーに行く人もいるけど、私はこれがすき。唐揚げのサイズもお願いできるしね。つくねを作るときなんか、目の前で挽いてもらえるし。やっぱりお肉の鮮度が違う。

「袋いらないからね。」とエコバックをだす。

「はい、毎度。」

野菜はあるから、油と粉ね。イトーヨーカ堂へと向かう。

イトーヨーカドー立石店は、最近のヨーカドーとはまったく違う、町のスーパーみたい。古くからのお店だということは、この佇まいからして感じる。この町では、このサイズがちょうどいい。大型店の進出で、どこも商店街はやられてしまって、シャッター商店街になっているが、この町はちがう。それも、大型スーパーがないからで、うまく共存しあっているようだ。また、住民にとってもこれくらいがいい。

レジを終えて、サービスカウンターの横を見ると「使い終わった油を回収します!」のポスターがある。

へえ、ヨーカドーで油回収?いいわね。葛飾区が昨年から、油の回収を始めたと区報で読んだが、回収場所が近くになかったから、億劫だった。ヨーカドーなら近くてイイわ。

「すみません、油の回収って、いつでもいいんですか?」

「はい、営業時間内ならいつでもどうぞ。」

「ま、嬉しい。ちょうど油を買って、今日は唐揚げをするのよ。唐揚げは、油が汚れるから、どうしても、次に使えないじゃない。ヨーカドーさん、嬉しいわ。ありがとうね。」

「唐揚げは汚れますものね。はい、いつでもどうぞ。」

「ところで、回収した油は、何にするのかしら?」

「いま、流行りバイオ燃料に葛飾区も取り組むそうですよ。あとは石けんとか、キャンドルなんかにするそうです。」

「ああ、車の燃料ね。やるわね〜葛飾区。石けんか〜。ヨーカドーでも石けんを売ればいいじゃない。」

「そおですね。上に言っておきます。」と適当な返事。

「ヨーカドーさん、全店でやってんの?」

「はい、葛飾区内のヨーカドーは全店です。葛飾区内でも亀有のアリオはやっていませんけど。」

「葛飾区内だけなんてすごいじゃない。」

「いえ、墨田や江東でも一部のヨーカドーでは、やっています。」(ヨーカードーさん答えてくださいね)

「それにしても行政も積極的に回収をやっているけど、ヨーカドーさんまでやってくださって嬉しいわ。アリオ亀有もやればいいのにね。映画見に行くついでに油を持って来る人はいるんじゃない?」

今日は面白い発見があったわ。それにキャンドルも作れちゃうのか。そういえば、この間、区報で見たわ。小学生向けのキャンドルワークショップ。使い終わった油を持って来てくださいってあって、本当に古い油で作るのかしら?って思ったんだ。(はい、みなさんがお持ちした油でキャンドルを作ったので、ちょっと唐揚げの香りが会場内を包みました(^^)

キャンドルワーク@葛飾.jpg

次は、酒屋さんへ寄るかな。ビールはあるけど、ワインがないな。ここは酒屋と言ってもワインに力を入れていて、地下にワインセラーもあり、月に一度ワイン会を開いている。オリーブやチーズ、オリーブオイルもそれなりに備えている。三越のデパ地下で買うよりリーズナブルで負けていない。さすがだ。

「こんにちは」

「あ、こんにちは。いらっしゃい。」

「唐揚げに合う白ワインある?」

「予算はどれくらいですか?」

「安いのでイイわ。家族でおうち飲みだから。」

「これ、サッパリしていて、揚げ物に合いますよ。」

「品種は?」

「シャルドネです。」

「どこ産?」

「西オーストラリアです。」

「いいわね、頂くわ。やっぱり揚げ物とワインって合うわよね。」

揚げ物ならビールだろうと思いなかがらも、最近はワイン党。一杯目はビールだけど。

「ところでヨーカドーで油の回収するそうよ。三河屋さんちもおやりなさいよ。ここでも美味しいオリーブオイル売っているんだし。」

「そうなんですよ。区から商店街に声がかかっているんですけどね、缶や瓶と違うからどうかなと思ってね。揚げた油で葛飾区のトラックを走らせるらしいですね。いやあ、面白いことやりますよね。本当に走るのかな。」

さ、ワインを冷やし、特製唐揚げの下ごしらえだ。

そのとき「成田に着いた。これから帰る。」と、メールがきた。京成線と北総線両方から特急が出ている。乗れば、一時間と掛からない。

「おかえり〜 唐揚げ準備中(^^)」と返信。

「おかえりなさい。暑いからシャワーでいいわね。」

「ただいま。うん、そうする。今日は唐揚げか。嬉しいね。」

まずは、冷えたビールで乾杯。

「どうだった?バンコク。」

「うん、内乱で久しぶりだったけど、このまま軍事政権が続くとなると、移転かな。まだわかんないけどね。街は、落ち着いてはいたけどね。ただ移転と言ってもどこへ行くのか?行き場なんかないだろうな。どこも不安定だよ。」

「お、美味い!さすがだね。今日は特に上手くいっている。」

「ネットで見ると、皮をパリパリにして、中をジューシーにする揚げ方って結構あってね、危ないからダメって書いてあるけど、圧力鍋で揚げるとケンタッキーに近づくらしいよ。」

「ふーん、でも油が違うんじゃないの。でも、ここまでできたら十分に旨い。」

「ワインあけようか?」

「開けてあげるよ。」

「うん、コルクじゃないから、簡単よ。」

「最近は、スクリューキャップが増えたよね。」

「そうね。あ、今日、ヨーカドーに買い物に行ったら、使い終わった油の回収を始めたんだって。それで葛飾区がバイオ燃料にした油でトラックを走らせるそうよ。石けんもだけど。」

「へえ。いいね。環境やエネルギー問題に町のスーパーが取り組んでくれるんだ。最近は発電もやっているらしいよ。クリスマスのイルミネーションを天ぷら油でやっているのを会社の近所でみたよ。区も発電にも使えばいいのにな。」

「ええ、そうなんだ。三河屋さんにも油の回収を勧めておいたよ。なおさらやるべきだよね。だってスーパーに負けちゃうじゃない。」

「そうだね。」と彼は笑った。

特製唐揚げを揚げた油は濾しても黒くなり過ぎて、次の揚げ物には使えない。

ペットボトルに油を入れてヨーカドーへ持っていこう。いままでは、固めたり新聞紙に油を吸わせて生ゴミと一緒に捨てていたけど、どうも気分が悪かった。町をあげて油のリサイクルが出来るなんてとってもいい気分。これでデンキが作れるなんてオモシロイ。

(ヨーカードー、葛飾区が油回収をはじめてくれたので、葛飾区、ヨーカードーPRショートムービーの原稿です。一部はフィクションです。)

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